フランス滞在10年で起きたピンチヒッター騒動、もう少し続けます!
(3)ニュルンベルクからの帰り道で飛行機を乗り捨て事件
空港で電話がかかってきて行先変更・・・といえば、こんなこともありました。
オーヴェルニュ管に入団して最初のプログラムで、ドイツのエルランゲンという街でコンサートがありました。
クリスティアン・ツァハリアスとのブルックナーの弦楽五重奏(弦楽合奏版)などなど。
それが終わって、ニュルンベルクの空港から、みんなとパリ経由でクレルモン=フェランに帰る予定でした。
ニュルンベルク空港のラウンジでのんびりしていると、友人ピアニストからメッセージが。
明日ナントでピアノトリオの本番があるのだが、ヴァイオリニストのお母さんが危篤になってしまったので、代わりに弾いてくれないか、と。
ブラームスは何度も弾いた曲だし、ハイドンは初めてだけどまあ何とかできるだろう。そのヴァイオリニストはとても親しい子だったこともあり、お力になれるならば、とお引き受けしました。
しかし、場所はすでにチェックイン後のラウンジ。
衣装その他の入ったスーツケースはクレルモン=フェランまで預けたことになっています。
機内に乗り込んで早々CAさんに事情を話し、パリで降りること、荷物も引き取りたいことを説明します。
すると、自己都合で荷物を取り出すには手数料が何百ユーロもかかるというではありませんか!!
取り出すっていっても、どっちみち次の便に積み替えるところを、そのまま引取口に出してほしいというだけのことなのに。
それで一旦その場での交渉はあきらめ、パリに着いてからカウンターで再度相談することに。
オケの事務局長がついてきてくれて、いっしょに事情を説明してくれます。
運が良かったのが、この時たまたま、クレルモン=フェランへの便の出発時刻が20分かそこら遅れていたのです。
それでどうやら、カウンターのスタッフが良い具合に誤解してくれて、「クレルモン=フェランへ予定通りに着けないから、パリで降りたいのね」というふうに解釈してくれたのですね。要はエールフランス側の不手際による途中降機ということになり、手数料は必要なくなったわけです。
よーわからん。
ともあれ荷物ともども降りられることになり、受け取り場所で待ちます。
しかし、いったんクレルモン=フェランまでチェックインしたスーツケースは待てど暮らせどベルトの上に現れない。
他の乗客はどんどん荷物を引き取る中、ついに私のスーツケースは出てこないまま、ベルトは停止。
(ロストバゲージは過去2〜3回経験済みなので、この絶望感、あーあまたか、という感じです)
急に行先を変更したので何かトラブってるんだろうなと思い、しばらく待ってみますが、やはり出てこない。
係の人に相談し、荷物扱いのスタッフのほうに連絡してもらい、何度も何度もやりとりがあった後、ついに私の荷物は行先不明品に分類され、保管倉庫に向かっていることが判明!
それでまたさらに待って、ようやくのことで荷物を引き取れたのでした。
そんなこんなで時間はもう夜。
ピアニストが家に泊めてくれるというので、タクシーで向かいます。
本番は明日。
何はともあれ、ハイドンのトリオを譜読みして(また金属ミュートの出番)就寝。
翌日はTGVでナントに移動。
結局ブラームスをさらう時間はないまま、合わせをします。
いくら何度も弾いていても、難しいものは難しく、こう突然じゃ音程もハチャメチャ!
それで合わせは早めに切り上げてもらい、残った時間で個人練習。
一緒に弾くのも初めての2人でしたが、助け合いの精神で、本番はなんとか乗り切ったのでした!
(4)当日ぶっつけ本番で弾き振り事件
オーヴェルニュ管にゲストで呼ばれるようになってすぐの頃。
ドヴォルザークの弦楽セレナーデと、シューベルトの「死と乙女」(マーラー編曲弦楽合奏版)というプログラムで、指揮者なしで、とあるヴァイオリニストがゲストコンマスとして弾き振りをする公演で、トップサイドで乗っていました。
本番当日、滞在先のアパルトマンをあと20分ほどで出ようというタイミングで、一本の電話が。
コンマスがコロナ陽性。
代わりにやってくれるか、とのことで、すぐOKしました。
というかOKしなきゃ、コンサート自体が中止になりますし、そもそもトップサイドはその可能性も込みで引き受ける仕事です。
リハーサルはすでに2日間行っていて、あとはゲネプロで1回通す時間があるかないか。
まだ、このオケの人たちのこともそんなによく知らない時代のうえ、バカンス前の公演だったので、セカンドヴァイオリンもチェロも客演首席で、本来のメンバーではない状態。
ドヴォルザークは弾き振りもしたことがあったし、それ以外でも何度も弾いているので大丈夫。
死と乙女はカルテットで1回、弦楽合奏で1回弾いただけで、その時もあまり練習が多くなかったので、私も正直あまり余裕なし。
という感じでしたが、オケの皆さんは知り尽くしていらっしゃるし、私は要所要所でアンサンブルをまとめていけば大丈夫という状態で、ゲネプロ・本番とも無事終了。
つかれました。

オーヴェルニュ管に入団する前、ゲストで伺っていた時代の重要な出来事としては、このアクシデントの他にもう一つあって、それは日本ツアーでのこと。
日本に着いて、初日の本番の前日にリハーサル日が設けてあったのですが、コンマスのギヨームがスイスかどこかでのコンサートのため、本番当日の朝にしか日本に着けない、ということに(そんなスケジュールあり!?笑)。
それでやむをえず、前日リハはトップサイドの私が代わることに。
そのプログラムの中に、モーツァルトの未完の弦楽三重奏曲を、音楽監督のトーマス・ツェートマイヤーが弦楽合奏にアレンジしたものがありました。
最初の2ページはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3人のソロで、後から全員が入ってきます。
本来のコンマスのギヨームがいないのだし、他の人には関係ないのだから、リハではこの箇所はスキップするのが普通です。
しかし当日急に弾けと言われては困るので、一応こっそり練習はしてあって、しかも念のため、トーマスに「明日ソロの部分やりますか?」と聞いてみると、「ギヨームの飛行機が万一遅れたりしたら、あなたが本番も代わるのだから、準備しておいてください」とのこと。
本当にちゃんと弾けるのか確認したかったのか、実際リハではトーマスもみんなも見ている前で、最初から最後まで全部弾かされました!
結局ギヨームは無事に日本に到着し、ちゃんと本番は弾いてくれたのですが。
その後入団できたのは、もちろんオーディションに受かったからなのですが、こういう一つ一つの場面でも力を試されていたり、信頼できる人間かどうかジャッジされたり、ということは間違いなくあると思います。
もちろんそれはこれからも同じですし、いつそういう場面が降りかかってくるかわかりません。
こんなドラマティックな場面でなくても、日常の何気ない振る舞いや演奏が、ひとつひとつの信頼をつなげることにも、壊すことにもなりかねない。
とても難しいことですが、共演者や主催者をがっかりさせたりしないよう、どんな時でも万全に準備し、頼ってもらえる存在でい続けたいと思っています。














