オーヴェルニュの楽屋通信

日仏で活動するヴァイオリニスト小島燎のブログ。広島、京都、パリを経て、現在オーヴェルニュ地方クレルモン=フェラン在住。

フランスのオーケストラのオーディション②

前回の続きです。

その初挑戦以来、「募集があるところには片っ端から受けに行ってみよう!」というつもりでいたのですが、嗚呼、コロナ禍。

度重なるロックダウンで中止になったり、登録者数が少なすぎて流れたりすることが多かったです。

他にも、音楽監督の体調不良、戦争による影響、原因不明の中止など、なかなか思うように受ける機会がない。

もともとフランスは、ドイツに比べると圧倒的にオケの絶対数が少ないので、その中で自分の欲しいポジションとなると、年にそう何回もチャンスがあるわけではないのです。

その上、私は日本と行き来する身。オーディションの日にフランスにいなければ、話になりません。

 

そんなこんなで、今のオケに辿り着くまでに実際に受けたのは、トータル5回ほどだったかと思います。これはかなり少ない方でしょう。

準備したけれど流れたり、書類審査(スイスやオランダなど、フランス国外)を通らなかったりしたものを入れるとその倍以上。

あっという間に終わったものも、先のラウンドまで進んだものも。

時間が押しまくって待ちくたびれたこともあるし、会場の音響が悪すぎることへのショックが音に出たこともあるし、ろくに音出しの場所がなかったこともあるし、出番の3分前に弓が壊れたこともありました。なんでもありです。

しかし、このトライ&エラーの期間はいうまでもなく、とても貴重な経験でした。

 

 

一次予選は九分九厘といっていいほど、以下の2曲は出ます。

モーツァルトのコンチェルト4番か5番の1楽章。カデンツァ有りだったり無しだったり。

R.シュトラウスドン・ファン」1ページ目。これは本当に世界共通課題。

その他コンマスの場合は、ラヴェルマ・メール・ロワ」のソロ(いやらしい・・・)だったり、第2ヴァイオリン首席の場合は、ブルックナーの9番だったり、室内オーケストラだとハイドン交響曲のソロとか、メンデルスゾーン「真夏の世の夢」序曲などが出たこともありました。

 

その他の頻出課題、tuttiとしてシューマン交響曲第2番スケルツォ(個人的にはとても嫌な課題)、モーツァルト交響曲第39番フィナーレ、シェーンベルク浄夜」、バルトークのオケコンなど。コンマスソロとして英雄の生涯シェエラザードブラームス1番、町人貴族(演奏機会が少ないのになぜか超頻出。激ムズ)、マタイ受難曲ツァラトゥストラ、ミサ・ソレムニス、グラズノフ「ライモンダ」・・・この辺りは何度もさらったものです!

その他、ロマン派の協奏曲、バッハの無伴奏の緩徐楽章あたりはほぼ、確定です。

 

それはまあ大変ではあるのですが、「オーケストラで新しい人生を歩む」という明確な目標のためにやっているので、不思議とつらく感じることはなく、むしろ、たった数十秒のオケスタを完璧に磨き上げる作業を通じて、1音ずつ一切の妥協なくさらい込み、メトロノームやチューナーと向き合い、自分の感覚が研ぎ澄まされる感覚が、意外に快感でした。

一瞬のことに、ここまで微に入り細に入り取り組めるのは、オーディションならではでしょう。2時間のリサイタルプログラムでは、無理な話です。

京大入試のときもそういう感じだったのですが、目の前の明確な目標に向けて課題をクリアしていくことが、私は結構好きなタイプです。

 

そして、同じくオケを目指している友人たちと、お互いが受けるたびに試演会をやりました。

友達に聴かれるということは、私にとってなかなかのハードルなのですが、そんなことを言っている場合ではない。ある程度練習したら、あとはとにかく誰でもいいから、人前で何度も弾いて経験を積まないと、いざというときに力は出ません。

特にオケスタは、まったく違う時代やスタイルの曲の抜粋を次から次に弾かないといけないですし、それぞれあっという間に終わるので、何段か弾いているうちに調子が出てくるようでは意味がないし、ブラームスのコンチェルトで息が上がっているところに、突然モーツァルトの39番の軽さに戻らないといけなかったりするわけです。続けて弾いてみたときの感覚をつかんでおかないと、役に立ちません。

それに、オーディション独特の聴き方というものがあるので、コンチェルトにしても、たとえば情熱的だけど走りがちだったり、音が雑になったり、音程が上ずったりするのは、ソリストとしては許される場面だったとしても、オケでは完全にアウトだったりします。

そうしたことを冷静な目で意見を言ってくれる存在は、とてもありがたかったものです。

フランス語ではrodage(ならし運転)と言いますが、とにかくこれを徹底的にやって、客観的に見た時の自分の弱点や癖、どういうところで何が起きやすいか、など、準備やイメージが足りていない部分をあぶり出し続けました。

 

そういう意味で、己と向き合い続けた、とても貴重な期間だったし、実際この繰り返しを通じて、かなりスキルアップしたと思います。特に、自分の音を聴く耳の厳しさが、以前の比ではなくなったし、とにかく自己満足・自己陶酔を排除して、相手に「この人と一緒に仕事したい」と思わせる演奏を追求しました。

 

また、今のオケのところまで辿り着きませんでした・・・。