オーヴェルニュの楽屋通信

日仏で活動するヴァイオリニスト小島燎のブログ。広島、京都、パリを経て、現在オーヴェルニュ地方クレルモン=フェラン在住。

フランスのオーケストラのオーディション①

 

フランスで8年半生きてきましたが、その中で、日本人の先輩方がブログやインタビュー記事で綴っておられる情報や体験記に、どれだけ助けられたかわかりません。なかには赤裸々に苦労話を語っておられる方もいて、ああ、この人もこんな思いをしながら今に至っているのか・・・と励まされたものです。

現在進行形でフランスで奮闘している私ではありますが、以前の滞在許可証のブログ記事も、当事者にとっては切実な問題、読んでくださった方が結構いらっしゃるようで、これからフランスないしフランス語圏で働こうとされている方に少しでも参考になれば、という気持ちもあり、最近のことをまた少し書いてみようかなと思います。

 

私は2015年にフランスに来た最初の頃から、学生としての数年間を終えたら、こちらのオーケストラで、願わくばコンサートマスターとして働きたいと考えていました。

当時はそれが唯一ヨーロッパに残る手段だと思っており、学生の滞在許可証がもらえるうちになんとか居場所を見つけなければ、というプレッシャーもありました。

 

しかし実際にはすぐにオーディションを受けることはありませんでした。 

以前のブログでも書いたとおり、外国人がフリーランスとして生きていく道があるとは、来た頃はまったく知らなかったのですが、私の場合は大変幸運なことに、2年目あたりから室内楽を中心に色々とお声かけいただくことが増え、その活動と勉強とですっかり忙しくなったので、オーケストラに入ることは後回しになっていたのです。

そして滞在許可証の問題も解消し、アンテルミタンにもなり、生きていくぶんには問題がなくなりました。

フリーランスでいたほうが、勉強を続けながら、自分のやりたい活動を続けられるし、日本との往復にも好都合だと思っていたのと、あとは単なる臆病でオーディションを受けることに踏み出せずにいただけの面も(苦笑)

ともかく当分はこれでいいかな、と思っていたのですが、契機はコロナ禍。

 

突然、コンサートがストップし、私は長期で日本に帰り、有り余る時間を練習に費やしていたのですが、その時に、いずれオーディションを受けるとしても、コンマスに絞るとしたらそんな簡単には受からないだろう(当たり前)し、オケスタにも慣れておかないといけない(何ひとつ弾いたことない)し、コンチェルトももう一度さらい直さなければ・・・と、そろそろ準備していったほうがいいのではないか?と思い立ったのです。

フリーランスとして、次から次へと忙しく旅をして回ったり、必ずしも満足いくコンディションとはいえないこともある音楽祭やオーケストラで、毎回別の人たちと弾いたりすることに、少々心身ともに疲れていた面もあり、そろそろ道を見直したいという気持ちもあったと思います。

 

そんなわけで、2〜3年後に受かればラッキー〜!くらいの気長さで、オケマンなら誰でも知っている教本Orchester Probespielを買って、「シェエラザード」やら「英雄の生涯」やら、片っ端から練習し、オーディションで必ず弾かされるモーツァルトのコンチェルトとロマン派のコンチェルト(私の場合はブラームス)も1から練習し直しました。

 

そうしている時に見つけたのが、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団(Orchestre Philharmonique de Radio France)のソロ・コンサートマスター(フランスではsupersolisteと言います)の募集。

フランスでももっとも評価の高いオケの一つで、スイス・ロマンド管に移籍した、あのスヴェトリン・ルセフの後任選びでした。

前任者は私にとって神様のような存在ですし、もちろん、何の経験もない自分にはあまりにも大きすぎるポストだとは思いましたが、その時はとにかくコロナ1年目で、他に目標もなかったし、「一番大きなところを最初に受けておけば、あとは怖いものもなくなるだろう」と考え、チャレンジすることにしました。

こうして一度オケスタやコンチェルトを準備しておけば、どのオケもたいがい似たような課題が出るので、後々役立つだろう、とも。

招待状が必要なドイツと違って、フランスは誰でも受ける権利はあります。

 

フランスではこのクラスのオケのコンマスとなると、膨大な課題が課せられます。たしかこの時は、お決まりのモーツァルト、ロマン派のコンチェルト、オケスタだけでなく、イザイのバラード、バッハの任意のフーガ、そして最終審査では室内楽や、実際にコンマスの席に座ってのシンフォニーや、「弾き振り」の課題もあったと思います。

ソリストとしてもなんでもこなせる圧倒的な技術、スタミナ、集中力、対応力、コミュニケーション能力をすべて持ち合わせている人材しか求めていないということが、課題を見た瞬間に一目瞭然・・・。

すでによそのオケでのコンマスの経験があるか、もう圧倒的なソリストでないと、相手にもされない感じです。

まあ、とにかく時間だけはあったので、頑張って練習しました!

 

44人受けて、2次予選に進んだのがたったの4人。

他のオーケストラのソロ・コンマスの方や、国際コンクール入賞者もたくさん受けていましたが、ほとんどみんな1次敗退。

そもそもオケのオーディションは、1番うまい人を決める場所ではなく、「そのオーケストラが欲しい人材」を引き抜くためのものなので、うまければ次に進めるわけではありません(その最たる例がパリ管弦楽団。ここ数年、何度オーディションをやっても誰も選ばれず、第1コンマス不在のまま!)。

そんなわけで私も次には進めなかったのですが、ラジオフランスの大ホールで、開き直りの精神で、自分なりにはうまく弾けた記憶があります(1次予選はカーテン審査のことがほとんどです)。

くじ引きで最後の方の順番を引いたので、たった5分かそこら弾くまでに、3時間半くらい待たされましたね。

音楽監督のミッコ・フランクが曲を指定する声が衝立越しに聞こえてきたのを、よく覚えています(笑)

ちなみにこの44人という数字は、コンマスのポジションなのでこの少なさですが、tuttiだと100人単位が受けに来ます。

 

この大きなオーディションにいきなり臨んだ、という達成感はあり、挑戦してよかったな、と思うことができ、また機会あるごとに受けていこうと決めました。

案外やってみれば、箸にも棒にもかからないわけでもないじゃないか、とも。笑

首席に絞って受ける以上、20回や30回撃沈することくらい、覚悟の上だし、それだってついに受からないかもしれないので。

外からは見えないことですが、そもそも日本・海外を問わず、いまプロオケの現役団員の方、もちろん一発合格の人もいらっしゃるでしょうが、多くは落ち経験を積み重ねた末の勝利だと思います。だって100人受けて1人選ばれるか、選ばれないかなんですから!

あの樫本大進さんでさえ、二度目の挑戦でベルリン・フィルコンマスになられたとおっしゃっているのですし。

ただ、そのオーケストラが求めるものではなかった、ということに過ぎず、国際コンクールと違って、ダメだったからといってキャリアに傷がつくものでもなんでもありません。

 

あとヨーロッパでは「内部受験」がとても多いので、外部から受けにきた新参者より、すでにそのオケでtuttiとして弾いている人が選ばれて昇格することも、かなりの割合であります。

ベルリン・フィルの元コンマスの安永さんやスタブラヴァ、新コンマスのヴィネタ・サレイカもみんな昇格タイプですね。

病気で惜しまれながら亡くなられたパリ管の第1コンマス、フィリップ・アイシュも。

日本ではコンマスは特別契約のことが多く、そもそもオーディションを経て選ばれることが稀なので、そういうことはまず見られません。

 

ちなみに、この時のオーディションで合格したのは、ある地方オケのコンマスの方でしたが、その後の試用期間で結局、不採用となり、募集は振り出しに戻りました・・・。

 

そんなこんなですから、これから受ける皆さん、どんどん挑戦するしかありません👍

 

その後、今のオケに至るまでの道のりは、次の記事で!